大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成4年(ワ)19387号 判決 1994年10月21日

横浜市南区吉野町四丁目一七番地

原告

株式会社ニュースタイン

右代表者代表取締役

菅沼則之

右同所

原告

菅沼則之

右両名訴訟代理人弁護士

江口英彦

東京都千代田区丸の内二丁目六番三号

被告

三菱商事株式会社

右代表者代表取締役

諸橋晋六

右訴訟代理人弁護士

中本和洋

倉橋忍

右訴訟復代理人弁護士

牧野美絵

鷹野俊司

東京都港区芝二丁目二三番一三号

(送達場所)東京都港区赤坂六丁目一七番五号

被告

株式会社廣済堂出版

右代表者代表取締役

見田清司

右訴訟代理人弁護士

柴田敏之

澤口秀則

兵庫県姫路市北条梅原町一四五番地

被告

佐想光廣

右訴訟代理人弁護士

山本美比古

主文

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告株式会社ニュースタインに対し、各自金七〇〇万円及びこれに対する被告三菱商事株式会社及び同株式会社廣済堂出版は平成四年一一月一二日から、被告佐想光廣は同月一三日から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告らは、原告菅沼則之に対し、各自金三〇〇万円及びこれに対する被告三菱商事株式会社及び同株式会社廣済堂出版は平成四年一一月一二日から、被告佐想光廣は同月一三日から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁(被告三名)

主文同旨。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

(一) 原告株式会社ニュースタイン(以下「原告会社」という。)は、ゴルフクラブ等運動具の開発、設計、製造及び販売等を目的とする株式会社であり、原告菅沼則之(以下「原告菅沼」という。)は原告会社の代表取締役である。

(二) 被告三菱商事株式会社(以下「被告三菱商事」という。)及び被告佐想光廣(以下「被告佐想」という。)は、相互に提携して「サソー・グラインド(SASO GRIND)」と称するゴルフクラブ(以下「被告佐想のゴルフクラブ」ともいう。)を製造、販売している。

(三) 被告株式会社廣済堂出版(以下「被告廣済堂」という。)は、ゴルフ雑誌「週刊アサヒゴルフ」の出版等を目的とする会社である。

2  原告菅沼の発明

(一) 原告菅沼は、従来固定軸のある回転体のみに適用されていたダイナミックバランス理論をゴルフクラブのように棒状であり、かつ、回転軸が一定しないスポーツ用具にも適用範囲を拡大することに新規性のある発明(以下「本件発明」という。)をし、国内外において次のような特許出願、特許公開及び特許がされている。

(1) 日本

<1> 発明の名称 運動球技用具とその製造方法

特許出願 昭和六二年一二月一八日(特願昭六二-三一八七五八号)

出願公開 平成元年六月二三日(特開平一-一六〇五七七号)

<2> 発明の名称 運動競技用具とその製造方法及び測定装置

特許出願 昭和六二年一二月一八日(特願昭六二-三一八七五九号)

出願公開 平成元年六月二三日(特開平一-一六〇五七五号)

(2) 英国

特許 一九九二年三月二五日 GB二二一一四二七号

(二) 本件発明の内容は次のとおりである。

一方の端部側に打球部分を、他端側にプレーヤーが保持するグリップ部分を有する運動球技用具にあって、その用具の長手方向両端の間の位置に釣り合い点、および重心を有し、その釣り合い点、あるいは重心を回転軸として両端部側を回転運動させたとき、回転運動による軸応力が、実質的に最小になるように、重量配分が調整されていることを特徴とする運動球技用具。

3  被告らの行為

(一) 被告三菱商事及び被告佐想は、平成四年三月ころ、「ダイナミックバランスで正確なインパクトを提供 新しい設計思想に基づくゴルフクラブ”SASO GRIND スーパードライバー“三菱商事より新発売」と題する資料(丙第一号証。以下「発表資料」という。)を記者発表した。

右発表資料の表題部には、右記載に引き続き、「三菱商事株式会社は、このほど佐想光廣氏(兵庫県姫路市)と提携し、同氏が開発した新しい設計思想に基づくゴルフクラブ”SASO GRIND スーパードライバー“チタンヘッド及びメタルヘッド2機種を発売することになりました。」との説明がある。

さらに、右発表資料の本件商品発売の経緯欄には、「(佐想氏は)一九八九年に従来の発想にこだわらないダイナミックバランスの開発に着手しました。試行錯誤の結果、一九九〇年五月に先ずアイアンの商品化に成功、一九九一年五月にダイナミックバランスに関する特許申請を行い、一九九一年一一月にドライバーの商品化に成功しました。」との説明がある。

(二) 被告廣済堂は、週刊アサヒゴルフ平成四年六月九日号(甲第一号証)に「松尾俊介が聞く、最新クラブ開発ストーリー「SASO GRIND」(サソー・グラインド)」と題する記事(以下「掲載記事」という。)を掲載したが、右掲載記事中には、「”三菱“を動かしたダイナミックバランス理論」との見出し、「ダイナミックバランスとは、従来のクラブが静的状態でのクラブのバランスを考えて設計しているのに対し、動的なバランス、つまりスウィング中にクラブヘッドがブレないような設計」との注釈、「コピー品が出回り始めさっそく特許申請を」との中見出し、次のような松尾俊介と被告佐想の問答が記載されている。

松尾 すると三菱はあなた自身とあなたの考え出したダイナミックバランス理論に対して投資をしたという事ですね。

被告佐想 その通りです。

(以下、前記発表資料及び掲載記事を合わせて、「本件各記事」という。)

4  虚偽事実

本件各記事の前記各記載は、

<1>SASO GRINDなるゴルフクラブがダイナミックバランスを実用化したものであるとする点

<2> ゴルフクラブにおいてダイナミックバランスを実用化することを考え出した第一発明者は被告佐想であるとする点

<3> 被告佐想がダイナミックバランスに関する特許申請をしたとする点

において明らかな虚偽がある。

すなわち、

(一) <1>について

機械工学便覧(日本機械学会編)によれば、ダイナミックバランスとは「固定軸まわりに角速度で回転する剛体ではすべての質量部分に慣性力が生じ、これが軸や軸受に外力のごとく作用する。軸上の任意の点で、この慣性力の合力Fと原点O(回転の中心)に関する合モーメントNは、回転とともに向きが変化するから、軸を支持する機構に動的荷重として作用し、機械振動の原因となる。有害なFとNを零とするように、回転体の質量分布を次のようにする。動つりあい条件として、任意の回転軸上で、偏重心を零とする条件を含み、回転体の重心を通る慣性主軸の一つを回転軸と一致させる技術。」と定義されている。

SASO GRINDなるゴルフクラブは、次の三つの理由において、おおよそダイナミックバランス理論の実用化というには程遠いのにもかかわらず、これをダイナミックバランスと宣伝していることは、虚偽の事実である。

ア ゴルフクラブの重心点ではなく、シャフト軸線を中心にヘッドが回転するクラブでスウィング軌道が安定することはない点

イ 偏重心を零とする条件を満たしていない点

ウ 回転体の重心を通る慣性主軸の一つが回転軸と一致するという条件を満たしていない点

(二) <2>について

ダイナミックバランス理論に基づくゴルフクラブの開発は原告菅沼の業績であり、被告佐想が開発した新しい設計思想ではない。

(三) <3>について

被告佐想の特許申請(甲第一七号証)には、動つりあい条件として、任意の回転軸上で、偏重心を零とする条件を含み、回転体の重心を通る慣性主軸の一つを回転軸と一致させる技術との説明は全くなく、この申請がダイナミックバランスに関するものではないことは明らかである。

5  被告らの、原告会社に対する不正競争行為及び業務妨害行為

被告三菱商事、被告佐想及び被告廣済堂は、本件各記事には右のような虚偽事実が含まれていることを知っていたか少なくとも知るべきであったのに過失によって知らないで前記のように本件各記事により虚偽の事実を陳述流布した。

被告三菱商事及び被告佐想は原告会社とは競争関係にあり、被告廣済堂は原告会社とは競争関係にないが、被告三菱商事、被告佐想と共同不法行為者の地位にあるから、不正競争行為について共同不法行為責任を免れない。

仮に被告らの行為が不正競争行為に当たらないとしても、偽計による業務妨害として不法行為に当たる。

6  原告会社が被った損害

(一) 原告会社は、本件発明をゴルフクラブにおいて実用化し、昭和六二年一二月一日からポルホード、ポルホードバランスとの登録商標を付して製造販売するとともに、以来四年余りの長期間にわたり約八〇〇〇万円もの宣伝広告費を投じてゴルフクラブにおけるダイナミックバランス理論をゴルフ雑誌等に公表し、多大な販売実績、広告効果を挙げてきたもので、右原告会社による製造、販売及び公表がなされるまで、ゴルフクラブは勿論あらゆる運動球技用具において、国内外を問わず、ダイナミックバランス理論を実用化した商品及び商品広告は存在せず、原告会社は、あらゆる運動球技用具において、ダイナミックバランス理論を実用化し、商品広告してきた唯一の事業者であった。

被告らの前記行為の結果、原告会社の取引先、一般読者、顧客が原告会社の商品に対して与えていた新規性、独自性の評価は著しく減少した。

これにより原告会社は、国内ではミズノ、ブリヂストン、ダンロップ、ヤマハ、国外ではウィルソン、マクレガーとのライセンス契約交渉に支障を来たしているだけでなく、原告会社の製造販売にかかるゴルフクラブは月間二〇〇万円以上の売上があった三越百貨店の店頭商品から外されてしまった。また、株式会社テック代表者北島政美氏の紹介による大手二社との技術提携の話も、本件各記事の発表以来進展していない。

(二) 被告三菱商事及び被告佐想はダイナミックバランス理論を実用化したと称するゴルフクラブを製造、販売し、これまでに少なくとも一億四〇〇〇万円の売上実績を挙げている。

被告らの不正競争行為及び業務妨害行為による原告会社の損害は、ダイナミックバランス理論を実用化したゴルフクラブの製造、販売の際のロイヤリティー相当額である販売額の五パーセントと解するべきであるから、原告会社の被った損害は七〇〇万円を下らない。

7  被告らの原告菅沼に対する名誉毀損行為

(一) 原告菅沼は、本件各記事発表の当時、ダイナミックバランス理論のゴルフクラブにおける第一発明者であるとの社会的評価を受けていた者であり右事実については、被告三名とも認識していたか、少なくとも認識すべきであった。

ところが、被告らは、前記3、4記載のとおり、本件各記事で、ゴルフクラブでダイナミックバランスを実用化することを考え出したのは被告佐想であるとする虚偽の事実を公表し、特にその中には「コピー品が出回り始めた」旨の記載があったため、一般読者、顧客、記者等は、原告菅沼が被告佐想の発明技術ないしはアイディアを盗用したかのように誤解した。

(二) 原告菅沼が、右のような被告らの名誉毀損行為によって受けた精神的損害は、三〇〇万円を下らない。

8  よって、原告会社は、被告らに対し、主位的には不正競争防止法二条一項一一号、四条、民法七一九条一項に基づき、予備的には偽計による業務妨害行為として民法七〇九条、七一九条一項に基づき、各自七〇〇万円及びこれに対する訴状送達の翌日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

また、原告菅沼は、被告らに対し、民法七〇九条、七一九条一項に基づいて、各自三〇〇万円及びこれに対する訴状送達の翌日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  被告三菱商事の認否

(一) 請求原因1(一)記載の事実は知らない。同1(二)記載の事実は認める。

(二) 同2記載の事実は知らない。

(三) 同3(一)記載の事実は認める。

(四) 同4記載の事実は否認する。

(五) 同5記載の事実は争う。

(六) 同6記載の事実は否認する。

(七) 同7記載の事実は否認する。

(八) 同8記載の主張は争う。

2  被告廣済堂の認否

(一) 請求原因1記載の事実は認める。

(二) 同2記載の事実は知らない。

(三) 同3(二)記載の事実は認める。

(四) 同4ないし8記載の事実、主張はいずれも争う。

3  被告佐想の認否

(一) 請求原因1(一)記載の事実は知らない。同1(二)及び(三)記載の事実は認める。

(二)(1) 同2(一)記載の事実のうち、原告菅沼が日本国内で特許出願をし、出願公開されていることは認め、その余は知らない。

(2) 同2(二)は知らない。

(三) 同3(一)記載の事実中、発表資料を被告三菱商事が記者発表したことは認める。被告佐想はその場に同席していたものである。

(四) 同4ないし8記載の事実、主張はいずれも争う。

三  被告らの主張

1  被告三菱商事の主張

以下のとおり、本件各記事は、虚偽事実にあたらない。

(一) 原告らの請求原因4(虚偽事実)<1>について

(1) SASO GRINDなるゴルフクラブは、ゴルフクラブのヘッド部分を、そのシャフトの周方向に回転させたときのバランスを、ゴルフクラブのヘッド部分における重量配分によって改善することを目的として製作されたものである(甲第一号証)。

一方、原告らのゴルフクラブは、クラブの長手方向(シャフト)の両端の間にバランス点又は重心を中心に回転させ、バランスを取ることを目的として製作されている(甲第三号証参照)。

このように、両者は、ゴルフクラブの製作に当たって、同様にゴルフクラブのバランスを考えているが、その手法は全く異なっており、そのことは、その違いについても文章または図解によって詳しく説明されている宣伝を読めば明らかである。原告らは、自己の主張する手法のみが科学技術用語である「ダイナミックバランス理論」を正当に実用化したものと主張するが、被告らの応用手法をダイナミックバランス理論という手法を使って説明することは、技術的にも法的にもなんら問題はない。

(2) 科学技術用語大辞典(乙第一号証)によれば、「ダイナミックバランス」とは、A「回転体が強制的に回転させられている軸あるいは基準となっている軸が慣性主軸と平行である場合、回転体に存在する状態」とされ、さらに、B「物体の重心の周りの慣性相乗モーメントはどんな回転軸に関しても存在しない」と説明されている。

但し、ダイナミックバランス理論の応用または利用の場面ではすべての回転体に、理論Bがその定義どおり正確に適用されるものではなく、回転体の重量が均質であり、回転軸が特定できるとはいえない場合には、理論Bに近い形での応用、すなわち理念の応用にならざるをえず、ゴルフクラブでは、人体の回転及びクラブの回転について回転体を考えることになるため、理論Bの理念の応用にならざるをえない。

そして、一般には、ダイナミックバランスという用語は、理論Bに基づき理論Aの定義、つまり回転体のバランス状態という意味で使われており、被告佐想もこのような観点からダイナミックバランスの語を用いその内容を説明しているのであるから、虚偽とはいえない。

(二) 同<2>について

(1) そもそも、被告三菱商事らは、ダイナミックバランスの実用化の第一発明者は被告佐想であると宣伝したことはなく、被告三菱商事らが販売しているゴルフクラブに関するダイナミックバランスの実用化手法は、被告佐想自らが発明したものであると言っているにすぎない。

(2) 前記(一)(1)のとおり、原告らと被告らのゴルフクラブは「ダイナミックバランス理論」という用語を使用していても、その実用化手法が異なっていることが、宣伝の文章または図解により容易に分かるものである。

(三)同<3>について

被告佐想は、ゴルフクラブの開発について、次のような特許申請をしており、本件各記事は虚偽の記載ではない。

(1) 出願日 平成二年五月二日 (特願平二-一一六五一八号)

(2) 出願日 平成三年五月一日 (特願平三-一三〇三七五号)

(3) 出願日 平成三年一二月二一日(特願平三-三五五八八八号)

2  被告廣済堂の主張

(一) 以下のとおり、被告廣済堂の行為は、不正競争防止法所定の不正競争に当たらない。

(1) 被告廣済堂は、原告らとの間において、同法二条一項一一号にいう「競争関係にある他人」には該当しないから、掲載記事の発行行為が同条項に該当することはない。

被告廣済堂は、原告らと競争関係にある相被告らに対し、競業上の利益を得せしめる目的もなかった。

(2) 同法二条一項一一号においては、誹謗の対象となる他人が特定され、誹謗対象者の商品についての虚偽事実を摘示することを要するところ、本件各記事には原告らの商品に関する記述、又はそれを連想させる記述は全く無い。当然ながら原告らの商品に関する虚偽事実を含まず、なんら営業誹謗行為とはならない。

(3) 被告三菱商事らのゴルフクラブはダイナミックバランス理論を応用したものであるが、原告会社のゴルフクラブが同理論を応用した最初のものであるという事実と両立するし、被告佐想以外の同理論の応用方法につき、先行するものの有無については言及していないから、本件各記事は虚偽とはいえない。

また、仮に被告佐想のゴルフクラブが正確にダイナミックバランス理論を応用したものといえないとしても、被告廣済堂は、これを知らなかったし、そこまで調査する義務があるとはいえない。

(4) 被告廣済堂は、原告会社の商品とダイナミックバランス理論との関係を知らなかったから、本件各記事が原告会社の商品を誹謗することになるとの故意も過失もない。

(二) 右(一)のとおりであるから、同様に民法七〇九条の業務妨害行為も成立しない。

なお、民法第七一九条の共同不法行為は、各自不法行為の要件を備えることが求められるところ、被告廣済堂には、原告らの商品の市場価値を減じさせようという故意もなく、また、本件記事発行に際し、原告らの商品の取扱について何らかの注意義務があった訳でもないので過失もない。したがって、被告三菱商事らの行為との間に共同不法行為関係を認めることはできない。

(三) 被告廣済堂の本件記事は、原告菅沼の社会的評価を傷つけるものでないし、また、その旨の故意も過失もなかった。

3  被告佐想の主張

本件各記事は、以下のとおり虚偽事実に当たらない。

(一) 請求原因4<1>について

(1) そもそも、掲載記事においては、被告佐想のゴルフクラブにおけるダイナミックバランス理論の適用場面を明らかにし、記事及び図解によってその考えを説明しているのであるから、原告らが販売しているゴルフクラブと被告佐想のゴルフクラブは根本的に着眼点が異なり、また開発箇所も別異のものであることは明らかである。

被告佐想のゴルフクラブについて、「ダイナミックバランス」という用語をもって宣伝したことによって原告らの販売しているゴルフクラブに影響を及ぼすことはないし、また、因果関係のある損害を発生せしめるものではない。

(2) 被告佐想は、シャフトとヘッドで構成されL字形をなしているゴルフクラブの形状の特殊性を前提にして、意図的にヒール寄り(クラブヘッドのシャフト側寄り)に重量を配分し、シャフト軸線と重心点を通る慣性軸線とを最大限に一致させることにより偏重心がほとんどゼロになるゴルフクラブを開発したもので、ダイナミックバランス理論により開発されたゴルフクラブということができる。

(3) 被告佐想の開発したゴルフクラブは、従来のゴルフクラブ一般において生じていたトウダウン現象や引っかけの現象を除去しようとしてなされたものである。すなわち、従来のゴルフクラブはクラブヘッド部分における重心位置がややもすればトウ寄りに存していたところ、被告佐想はこのクラブヘッドの重心をヒール寄りに移動させることによって、従来のゴルフクラブでは避け難かったトウダウン現象や引っかけを消滅させ、さらにインパクト時におけるエネルギーのロスを無くすることに成功したのである。

ゴルフクラブでは、実際のスウィングの場合、インパクトの前後において約一八〇度クラブヘッドがシャフトを軸として回転するものであるところ、この回転がいかにスムーズに実現され得るかという観点が当然必要になるものである。被告佐想は右のような場合にシャフト軸を中心に回転するクラブヘッドにおいて外力を極力生じさせない重量配分を開発したものである。このようにシャフト軸を中心に回転するクラブヘッドの重量配分を最も回転がスムーズにかつゴルファーによって発生せしめられたエネルギーのロスをなくすることができる重量配分を開発しているのであるから、これはまさしくダイナミックバランスの理論そのものである。

原告らは、ゴルフクラブにおけるダイナミックバランスを一義的なものとしか理解していないが、実際には、ゴルファーの体を中心としたシャフトの回転(時計の針が動くのに似た動き)と、右のシャフトがゴルファーの体の回りを振り回される中で、そのシャフトを軸としたクラブヘッドの回転(船舶の舵に似た動き)とが併存し、これらの二つの回転場面に則してそれぞれダイナミックバランスが考えられる。原告らはこの二つの場面の存在を無視し、原告らのいうダイナミックバランスのみがゴルフクラブにおけるダイナミックバランスだと主張しているのであり、このことに誤りがある。

(二) 同<2>について

被告佐想は、自らのゴルフクラブの設計思想を端的に説明したのみであり、原告らの営業活動を取り上げたりしたことはなく、原告ら主張のような虚偽広告をしたことはない。

(三) 同<3>について

被告佐想は、ゴルフクラブの開発について、次のような特許申請をしており、本件各記事は虚偽の記載ではない。

(1) 出願日 平成二年五月二日 (特願平二-一一六五一八号)

(2) 出願日 平成三年五月一日 (特願平三-一三〇三七五号)

(3) 出願日 平成三年一二月二一日(特願平三-三五五八八八号)

四  被告らの主張に対する原告らの反論

1  被告三菱商事の主張(一)について

被告三菱商事の主張はダイナミックバランス理論を自ら放棄したものであり、被告らの標榜するダイナミックバランス理論は、科学技術論に裏付けられないものに、もっともらしい用語を冠したものにすぎない。

2  被告佐想の主張(一)について

被告佐想は、トウダウン現象を解消したと主張しているが、トウダウン現象は、慣性の法則からして解消不能のものであるし、トウダウン現象とダイナミックバランス理論とは全く次元を異にする。さらに、被告佐想は「クラブヘッドがシャフトを軸として、いかに外力を生ぜしめずに回転できるかという動つりあいをとるように重量配分した」のが、ダイナミックバランスだというが、外力が生じない力学的根拠、外力(が零に近くなっていること)の測定方法についてなんら説明できないのである。

3  被告三菱商事の主張(二)、被告佐想の主張(二)について

被告らは、本件各記事に原告菅沼のことは一切触れていない旨弁解するが、本件各記事の発表当時、原告菅沼が第一発明者としての社会的評価を受けていたことについては、被告三名とも認識していた(少なくとも認識すべきであった)のであるから、本件各記事によって原告菅沼の第一発明者としての社会的評価を低下せしめることは十分に認識できたのである。

第三  証拠関係

本件記録中の書証目録記載のとおりであるからこれを引用する。

理由

〔以下、認定に供した書証は、特に断らない限り、成立又は原本の存在及びその成立に争いがない。〕

第一  請求原因1(当事者)について

原告らと被告三菱商事との間において請求原因1(二)の事実は争いがなく、原告らと被告廣済堂との間において同1(一)ないし(三)の事実は争いがなく、原告らと被告佐想との間において同1(二)(三)の事実は争いがない。これらの事実に弁論の全趣旨を総合すれば、請求原因1(一)及び(三)の事実が認められる。

第二  請求原因2(原告菅沼の発明)について

甲第二号証、甲第三号証、甲第六号証によれば、請求原因2の事実が認められ、この認定を左右するに足りる証拠はない(なお、原告らと被告佐想との間においては同2(一)のうち、日本国内における特許出願及び公開の事実は争いがない。)

第三  請求原因3(被告らの行為)について

原告らと被告三菱商事及び被告佐想との間において、請求原因3(一)の事実は争いがなく、右事実と丙第一号証によれば、請求原因3(一)の事実が認められる。また、原告ら及び被告廣済堂との間において、請求原因3(二)の事実は争いがなく、右事実と甲第一号証によれば、請求原因3(二)の事実が認められる。

第四  請求原因4、5(不正競争行為又は業務妨害行為の成否)について

一  不正競争行為の成否について

1  まず、本件各記事が、請求原因4<1>(SASO GRINDなる被告らのゴルフクラブがダイナミックバランス理論を実用化したものであること)の点において虚偽の事実といえるかについて判断する。

(一) 甲第一号証、甲第四号証ないし甲第八号証、甲第九号証の1ないし9、甲第一五号証の1、甲第一六号証の1ないし4、乙第一号証、丁第一号証によれば次の各事実が認められる。

(1) 「機械工学便覧、力学 機械力学改訂第六版」日本機械学会編(甲第七号証)には、「回転体のつりあい」の項に剛性回転体のつりあいについて、「固定軸(z軸)まわりに角速度ωで回転する剛体ではすべての質量部分に慣性力が生じ、これが軸や軸受に外力のごとく作用する。・・・・(中略)・・・・慣性力の合力Fと原点Oに関する合モーメントNは・・・・(中略)・・・・回転とともに向きが変化するから、軸を支持する機構に動的荷重として作用し、機械振動の原因となる。有害なFとNを0ならしめるには、・・・・(中略)・・・・回転体の質量分布を次のようにする。」と説明した上で、静つりあい条件と動つりあい条件にわけてつりあいの条件を説明しており、動つりあい条件すなわちダイナミックバランスとしては、「慣性乗積が0とは、回転体の慣性主軸の一つが回転軸と一致することを意味する。しかし原点Oは回転軸上で任意にとられているからこの条件はe=0の条件を含み、結局『回転体の重心を通る慣性主軸(重心慣性主軸、自由軸ともいう)の一つが回転軸と一致すること』を要求する。このとき回転体は完全つりあいの状態となり、回転軸はいかなる力も偶力も受けない。」(右eは偏重心)と説明されている。

(2) 「マグローヒル科学技術用語大辞典第二版」マグローヒル科学技術用語大辞典編集委員会編(乙第一号証)には、動つりあい(ダイナミックバランス)について、「回転体が強制的に回転させられている軸あるいは基準となっている軸が慣性主軸と平行である場合、回転体に存在する状態。物体の重心の周りの慣性相乗モーメントはどんな回転軸に関しても存在しない。」と説明されている。

(3) 本件各記事には請求原因3のとおりの記載があるが、掲載記事には、その最初のページに「ダイナミックバランスとは」との見出しの下に横組みで「従来のクラブが静的状態でのクラブのバランスを考えて設計しているのに対し、動的なバランス、つまりスウィング中にクラブヘッドがブレないような設計。ヒール側に重量を配し、スウィング中のヘッドの安定を図った」との解説がなされ、また、被告佐想のゴルフクラブの特徴として、「ある程度スウィングが固まってきた人がトゥ側にウエイトを配したクラブを使うと、ヘッドが返りすぎて球が左に飛ぶフックボールが出やすくなります。・・・・(中略)・・・・そこで、思い切ってヒール部分に肉付けをしたところシャフト軸線を中心にヘッドが回転するクラブができ、軌道も安定し引っかけも出なくなりました。」との説明文及びこれに対応する説明図が記載されている。

また、発表資料には、「SASO GRINDの特徴」の項目に「1.従来のトウヒールバランスのクラブから見れば、全く常識外れのネック部分への重量配分設計である。・・・・(中略)・・・・4.ヒールからヒールへ抜ける理想の重量配分設計によりインパクト時のトウダウンによるダブリを解消した。5.クラブヘッドの重心をヒール側へ寄せ、ヘッドの返りを七〇%押さえ、引っ掛けを防止した。6.クラブヘッドの重心がヒール側へ位置している為、インパクト直前のヘッドトウ側に起こりやすいかぶり現象が生じにくく、その結果シャフトの引け現象が起こらず、インパクト時のヘッド速度の向上となり、飛距離が向上する。」などの説明がされている。

(4) 原告会社は、「POLHODE」及び「Polhode Balanced」という商標について商標権を有し、ゴルフクラブを「ポルホードアイアン」及び「ポルホードパター」の商品表示で売り出しているが、そのゴルフ雑誌等における宣伝記事において、クラブのダイナミックバランスを取る技術を「ポルホード・バランス」と命名したことやダイナミックバランスとは、車のホイールバランスのように、回転軸のある構造体の回転モーメントをバランスさせる技術であるとか、回転運動中の物体に発生するバランスの意味であるなどの説明をし、説明図も掲載している。

(二) 右認定の事実によれば、ダイナミックバランスとは、力学、あるいは機械力学上、右(一)(1)(2)の説明にあるような状態を示す専門用語であり、内容から見て、基本的な用語といえるが、専門用語としてのこの語自体やその意味が一般社会人になじみがあるものでないことは当裁判所に顕著である。

他方「ダイナミック」の語は、「動力の、動的な、動態の、絶えず変化する、活動力を生ずる、力学、力学上の、活動的な、力強い。」等の意味を有する英語に起源を有する外来語で、原語と同様の、「動的、力強いさま、力学的、躍動的で力強さを感じさせるさま、活動的、動的で迫力のあるさま、躍動感のあるさま。」等の意味を有する語として、一般の国語辞典にも登載されている語であること、また「バランス」の語は、「天秤、はかり、釣合い、平衡、均衡、調和、安定。」等の英語に起源を有する外来語で、原語と同様の、「釣合い、平衡、均衡。」等の意味を有する語として、一般の国語辞典にも登載されている語であること、そして右のいずれの語も一般的意味の語として日頃よく使用される語であることは、当裁判所に顕著である。

本件各記事のうち、掲載記事には、前記(一)(3)に認定したとおり、最初のページに横組みで、記事中で用いられているダイナミックバランスという語の説明がヒール側に重量を配するという設計の要点の説明とともにされており、これによれば、掲載記事に使用されたダイナミックバランスという語が、どのような意味で使用されているのかは、一般人にも、専門用語としてのダイナミックバランスの語を知っている人にも明らかである。そして、その意味は必ずしも前記(一)(1)、(2)に認定した専門用語としてのダイナミックバランスとは正確に一致していなくても、右に認定した一般用語としての「ダイナミック」、「バランス」の二語を結合した複合語の意味として一般人が理解する意味である「動的なバランス」、「動的な安定」という意味に合致しており、他方、掲載記事中に、記事中のダイナミックバランスの語が、力学あるいは機械力学用語の意味で用いられていることを示す記載はない。しかも、掲載記事中に原告会社のゴルフクラブについての記載があることを認めるに足りる証拠はない。したがって、掲載記事は原告らの主張する虚偽の事実ということはできないし、原告会社の営業上の信用を害するものでもない。

本件各記事のうち、発表資料には、その中で用いられているダイナミックバランスという用語の定義が明示されているわけではないが、前記(一)(3)に認定したとおり、クラブヘッドの重心をヒール側へ寄せるという設計上の要点とともに被告佐想のゴルフクラブの特徴等についての説明が記載されており、発表資料にいうダイナミックバランスによるゴルフクラブの実質的内容は示されている上、そこで用いられているダイナミックバランスの語が力学あるいは機械力学用語であるとか、そのゴルフクラブが力学あるいは機械力学上のダイナミックバランスの理論を応用したものであるとの記載があることを認めるに足りる証拠はないから、発表資料に接した報道関係者らは、被告佐想のゴルフクラブの特徴を一般用語としての「ダイナミック」、「バランス」の二語を結合した複合語の意味として一般人が理解する意味である「動的なバランス」、「動的な安定」に理解し、その実質的な内容は、特徴として説明されているとおりのものと認識したものと推認される。そうすると、クラブヘッドの重心をヒール側へ寄せることによって、動的なバランス、スイング中のクラブヘッドの安定を図るという設計思想をダイナミックバランスと称することは、少なくとも一般用語としての用語に合致しており虚偽の事実とは認められない。しかも、発表資料中に原告会社のゴルフクラブについての記載があることを認めるに足りる証拠はなく、発表資料は原告会社の営業上の信用を害するものということはできない。

よって、原告会社のゴルフクラブが果たして原告らの主張するように力学あるいは機械力学上のダイナミックバランスの状態を実現したものか否かを検討するまでもなく、本件各記事が請求原因4<1>の点において、原告会社の営業上の信用を害する虚偽の事実ということはできない。

2  次に、本件各記事が、請求原因4<2>(ゴルフクラブにおいてダイナミックバランスを実用化することを考え出したのは被告佐想であるとすること)の点において虚偽の事実といえるかについて判断する。

前記第三認定の事実によれば、本件各記事には、「被告佐想が開発した新しい設計思想に基づく」「被告佐想が従来の発想にこだわらないダイナミックバランスの開発」「被告佐想の考え出したダイナミックバランス理論」との記載はあるものの、本件各記事中にダイナミックバランスの実用化を考え出した第一発明者が被告佐想であるとの記述は存しない。そして、本件各記事中のダイナミックバランスの意味が各記事中に説明されていることは右1に認定したとおりであり、被告佐想がそこで説明されている意味でのダイナミックバランスの考え方によってゴルフクラブを開発したことが虚偽であることを認めるに足りる証拠はない。

しかも、力学あるいは機械力学の専門用語としてのダイナミックバランスの状態は基礎的で一般的なものであり、それを応用し実用化する手法は一つに限定されるものではないこと、ましてや、ゴルフクラブは、本来ローターのように特定の軸を中心に回転するものでもないし、また一端にヘッドを持った明白に不つりあいの形態となっているものである上、人間が手で振るという操作を加えるものであるから、力学的あるいは機械力学的な意味でのダイナミックバランスに着目し、応用するといっても視点は一つに限られないことは、専門用語としてのダイナミックバランスの意味を知る人であれば容易に知ることができるものである。また、ダイナミックバランスの語を一般用語としてのみ理解する者にとっても、ゴルフクラブに動的なバランスを実用化するといっても多様な手段があることは予測できることと解される。したがって、本件各記事が、そこで使用されるダイナミックバランスの語について明示的にあるいは実質的に説明をしたうえで使用している以上、原告会社のゴルフクラブと被告佐想のゴルフクラブがともにダイナミックバランスの語を使用していたとしても、必ずしも同じ意味でないことは、これに接する人が認識することができることである。したがって、この点からも、SASO GRINDなるゴルフクラブにおいてダイナミックバランスを実用化することを考え出したのが被告佐想であるとの本件各記事は、原告会社の営業上の信用を害する虚偽の事実ということはできない。

3  更に、本件各記事が、請求原因4<3>(被告佐想がダイナミックバランスに関する特許申請をしたこと)の点において虚偽の事実といえるかについて判断する。

(一) 甲第一七号証によれば、被告佐想は、平成三年五月一日、発明の名称をアイアン型ゴルフクラブとする発明について特許を出願し、平成四年八月一七日、公開された(特許出願公開番号 平四-二二七二八五)こと、右特許請求の範囲の請求項1の記載は、「グリップを有するシャフト5下端部をクラブヘッド1のホーゼル部3の孔30に嵌合固定する一方、上記ホーゼル部3とクラブフェイス部2とをネック部4によって一体に連結してなるアイアン型ゴルフクラブにおいて、ネック部分の重量を上記クラブフェイス部2の背面22において厚みを増大させることによって増量し、クラブヘッドの重心をフェイス部の対角線の交点およびその近傍に位置させてなることを特徴とするアイアン型ゴルフクラブ」であることが認められる。

(二) 原告らは、右特許申請はダイナミックバランスに関するものではない旨主張し、弁論の全趣旨によって成立を認める甲第一八号証中には右主張に沿う記載がある。

しかしながら、本件各記事における「ダイナミックバランスに関する特許申請」の記載は、掲載記事のダイナミックバランスの説明や発表資料の内容に照らし、右1(二)に判断したような意味でのダイナミックバランスを具体化したゴルフクラブに関する特許申請をしたとの趣旨と解するほかはなく、右特許出願にかかる請求項1の記載は、ヒール側に重量を配する、クラブヘッドの重心をヒール側に寄せるという本件各記事が紹介している被告佐想のダイナミックバランスのゴルフクラブの技術思想を表現しているものと認められるから、これが力学あるいは機械力学上の専門的意味におけるダイナミックバランスを実現したものでなくても、本件各記事のダイナミックバランスに関する特許申請の記載が、原告会社の営業上の信用を害する虚偽の事実ということはできない。

4  以上のとおり、本件各記事は、原告会社の営業上の信用を害する虚偽の事実が記載されたものということはできないから、その余の点について判断するまでもなく、原告会社の不正競争防止法に基づく請求は理由がない。

二  業務妨害行為について

前記一認定のとおり、本件各記事は虚偽のものとはいえないから、被告らの行為が偽計による業務妨害行為と認めるに足りる証拠はない。よって、原告会社の民法七〇九条に基づく請求も理由がない。

第五  原告菅沼に対する名誉毀損の成否について

本件各記事のゴルフクラブでダイナミックバランスを考え出したのは被告佐想であるとの記載が虚偽といえないことは、右第四の一2に判断したとおりである。

原告菅沼は、本件各記事のうち、特に「コピー品が出回り始めた」旨の記載が、原告菅沼が被告佐想の発明技術ないしはアイディアを盗用したとの誤解を一般読者、顧客、記者等に与えた旨主張する。しかしながら、本件各記事中には、コピー品とは原告菅沼の開発したクラブであることを示す記載は全くないうえ、前記第四の一2に判断したとおり、専門用語としてのダイナミックバランスの状態が基礎的で一般的なものであって、そのゴルフクラブへの応用、実用化の手法が一つに限らず、一般用語としてのダイナミックバランスのゴルフクラブへの実用化といっても多様の手法が予測されること、被告佐想のゴルフクラブについての本件各記事においてダイナミックバランスの意味が説明されていること、他方前記第四の一1(一)(4)のとおり、原告菅沼の開発した原告会社の商品についてもそのゴルフクラブに応用した理論の説明がなされていることからすれば、本件各記事は、一般読者や顧客、記者等に原告菅沼が被告佐想の発明技術ないしはアイディアを盗用したとの誤解を与えるものではないと認められる。

よって、原告菅沼の名誉毀損の主張は、その余の点について判断するまでもなく失当である。

第六  結論

以上のとおり、原告らの本訴請求は、その余の点について判断するまでもなくいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 西田美昭 裁判官 高部眞規子 裁判官 櫻林正己)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例